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24. 光る海,暗い川,パラドクス,大嘘 [ことば・映像・音・食べ物etc.]

ここのところ読み返している本が多い。
と言うか、ケイザイが常に、否これまでになく困窮しているので新しい本はなかなか買えない。
余程でなけりゃ買わない。図書館で借りて読んで尚、手元に置きたいとなれば買う。だからハズレは無い。だから一所懸命に味わって何度も読む。
借りて済ました本の作者には申し訳ないけれど、そんなに沢山の本が読みたいワケじゃないし...だから「これでいいのだ。」(バカボンのパパ風に声に出して読んでね)あ、でも凄く気に入るとまるで自分の為に書いてもらったような気になって、調子に乗って2冊3冊買ったこともあります。ほんの数回だけど。

最近再び三たび読み返している中で、何故だか度々思い返してしまう節の幾つかを抜粋しよう。
そうして、ワタシは自分自身に何かを問いかけてみたいんだと思う。書き写すことによって、改めて会話したいんだと思う。
当然の話だけど、勿論これらは購入して手元にある本。但し、全てが現存される著者による作品であるからして(作者によっては迷惑な)無許可の抜粋。どうか、そこは “ひたすらの敬意を込めて” との意で許していただきたいと思う。


「おじさん、いつ向こうに行くの?」とモンドが訊ねた。
「アフリカに?紅海にかい?」釣師のジョルダンは笑った。「私は行けないな、この防波堤にいなきゃならん」
「どうして?」
 彼は答えを探した。
「それはね.....それはつまり、私は船を持ってない船乗りだからさ」
 それから彼はまた釣竿を見つめ始めた。
 太陽が水平線すれすれになった時、釣師のジョルダンはセメントブロックの上に釣竿を平らに置き、上着のポケットからサンドイッチを取り出した。半分モンドに分けてやり、二人は海に映った太陽の反射光を眺めながら、一緒に食べた。
 モンドはねぐらを探すために、暗くなる前に立ち去った。
「さよなら!」モンドは言った。
「さよなら!」とジョルダンは言った。モンドが少し遠ざかった時、ジョルダンが彼に叫んだ。
「また会いに来いよ!読み方を教えてやろう。難しくはないよ」
 彼はすっかり暗くなるまで、灯台が規則正しく四秒ごとに合図を送り始めるまで釣りをしていた。

 (『海を見たことがなかった少年』ル・クレジオ 著/豊崎光一・佐藤領時 訳/集英社文庫・「モンド」より抜粋)


 東京に戻って、檀一雄の妻へのインタビューをまとめた一冊、「壇」を読みはじめる。よく云うところの深くて暗い川、ただ、そうですか、というしかないような世界に、こりもせずまた深入りしてみる。
 よろず、一見善悪で割り切れないメンドウなある種のモノゴトは、複雑は複雑でも、それはさておき知らん顔していれば自然に通り過ぎるだけのことだったりする。割り切れないのは当然、モノゴトそのものよりも、生理に支配される「感情」のことであって、主観に過ぎないとも言える。それに感情というものも行ったり来たりでアテにならない。
 そうは云っても当事者になったら、感情にふりまわされるワタクシたち衆生のことであるから、割り切れないことはあるにせよ、極力シンプルな心持ちでいられる時間を持っていたいものだ。

(『お尻に火をつけて』鈴木亜紀 著/晶文社・「ただよう正月」より抜粋)


 でも、おい、そこの亀よ、と私は小声をかけてみる。
(中略)
 亀は答えず、亭々たるポプラの、黒い根かたにのろのろと隠れてしまった。
梢を見上げれば、午後二時の目つぶし、蝉の洪水。永山の書いた一節が、そのとき不図胸に浮かんだのだ。
「この部屋の一番明るい所が、一番暗くなる所であるとは、私は気がつかなかった」(「無知の涙」河出文庫)
 おい、亀よ、花よ、魚よ、今後は心せよ。一番明るい場所が一番暗くなる、光と闇との、ゆくりなきパラドクスに。

(『目の探索』辺見 庸 著/角川文庫・「骨の鳴く音」より抜粋)


風呂からあがると、すぐに夕飯が出た。田彦も蘆江も麦酒を呑み、清酒を冷やであおった。そういうさ中、数彦が、
「ね、お父さん、お父さんの知っていることで一番難しいことを、僕に教えて。」
 と言うた。田彦は返答に困った。
「うん、お父さんは難しいことって何も知らないけど、まあ考えてみれば、この世に生きることが一番難しいな。」
「この世に生きるって。」
「それはたとえば、数彦の場合だったら、毎日、幼稚園に行くだろう。それからご飯を食べたり、便所に行ったりするだろう。そういうことを毎日するのが、一番難しいんだよ。」
「ふーん、そんなこと難しくないじゃないか。」
「いや、それが一番難しいんだよ。そのうちに数彦にも分かる時が来るよ。」
 数彦は何のことだか、さっぱり分からないという顔をしていた。田彦たち一家の命は明日の晩までである。それを思えば、田彦は人生の末期が近づいて、最後の大嘘をついたような気がした。

(『忌中』車谷長吉 著/文芸春秋・「三笠山」より抜粋)
                              


       *

光る海。
暗い川。
パラドクス。
大嘘。


光る海。
暗い川。
パラドクス。
大嘘...
                                             


女の絵モノクロ.jpg













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